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1.1.2. 気候変動研究

確率論的な洪水予測をもとにした治水計画や水資源計画を脱却し、物理メカニズムに基づく気象予報・気候変動予測をもとにそれらを実現するためには、自然現象の理解が不可欠である。 アジア域においては夏季アジアモンスーンが人々の生活に大きな影響を与えるが、その季節進行や年ごとの変動の詳細なメカニズムは未だ明らかとなっていない。 本研究室ではアジアモンスーンのメカニズム解明をターゲットのひとつとして現地観測・データ解析・数値実験といった複数のアプローチ、そしてポイント(観測点)スケール・領域スケール・全球スケールといった複数の空間スケールを通して研究に取り組んでいる。

図2-1
図2-1) 6月の平均雨量と風の場。インド-タイ-南シナ海-日本にかけて多量の降水がみられる。また、それら全領域にわたる風の流れが形成されていることがわかる。夏季におけるこうした降水・風系は「夏季アジアモンスーン」として知られ、アジア域の人々の生活に多大な影響を与えている。

1.1.2.1. 現地観測

現在までの多くのモンスーン研究から、夏季アジアモンスーンにはチベット高原の加熱が重要な役割を果たすことが示唆されている。 しかし、チベット高原では現地観測データが乏しく信頼できるデータを用いての本格的な研究は困難であった。 本研究室では国際的な気象研究プロジェクトGAMEに参加し、得られた現地観測データを用いてチベット高原における水・熱収支の定量的評価を行い、大気加熱のメカニズム解明のための研究を行っている。 またGAME後継プロジェクトであるCAMPにも参加しデータ解析を行うとともに、実際に現地へ行って実現象を自らの目で捉えながら現象解明に取り組んでいる。

図2-2
図2-2) チベット高原における観測サイト(BJ:北緯31.37度、東経91.90度、高度4509m)。高層タワーや自動気象観測装置、雨量計など多数の測器による観測を実施している。(2002年8月 CAMP-Tibet)
図2-3
図2-3) 高層観測タワー(2002年8月 CAMP-Tibet)
図2-4
図2-4) 風速計や雨量計などの設置風景(2002年8月 CAMP-Tibet)

1.1.2.2. 領域スケールでの研究

現地観測は正しいデータを取得する意味で非常に有効だが、一地点のデータしか得ることが出来ないため3次元の空間で起きている自然現象を完全に理解することは難しく、またその空間代表性も問題となる。 そこで、現地観測によって得られたデータをもとに領域気象モデル等を用いた数値実験を行うなどして、より空間的に広がりをもった領域の現象理解を目指す。 このようなシミュレーション結果の検証のために再度現地観測を行うということもなされており、ひとつの研究に関しても複数のアプローチで取り組んでいる。

図2-5
図2-5) チベット高原の可降水量(上:GMS水蒸気チャネル)と地形(下)との関連。高原内(赤枠内)において山域(下図茶色の部分)では可降水量が少なく、谷域(下図黄色の部分)では多く、山-谷循環の存在が示唆されている。
図2-6
図2-6) チベット高原東部における熱発散量(W/m^2)。6月から8月にかけて常に正となり、周囲に熱を与えていると考えられる。また、雨季開始前(左図)のほうが雨季開始後よりも値が大きく、夏季モンスーン形成に影響を与えるものと考えられる。

1.1.2.3. 全球スケールでの研究

アジアモンスーンを考える上で欠かせない要素のひとつに「年々変動」というものがある。 これは年ごとの降水量や雨季の変化として現れ、人間生活に多大な影響を与える。 また、一年間の中にも「季節内変動」や「季節内振動」と呼ばれる気象の変化が生じる。 こうした時間スケールの現象を理解し予測するには、地球規模の空間スケールで研究することが不可欠となってくる。 本研究室では、人工衛星による水文データや全球再解析データ(数値実験の結果と現地観測データ・衛星データを合わせて作られたデータ)を用いた解析や、全球大気大循環モデルを用いたグローバルスケールの数値シミュレーションを行ってアジアモンスーンのメカニズム解明に取り組んでいる。

図2-7
図2-7) チベット高原における東西の積雪深の差の年々変動。(正の値は西での積雪が多い)
図2-8
図2-8) チベット高原の東西積雪深の差の年々変動と、6~8月の降水量の年々変動の相関。日本の東海上に強い負の相関域がみられ、東チベットでの積雪が多い年に雨が多いことを示唆している。
図2-9
図2-9) 風系(大気の循環)の形成期とアジア各域における雨季開始日の年々の遅れ日数の比較。アフリカ東部の南風(ソマリジェット)の形成の遅れ/早まりと雨季開始日との間に関連が認められる。