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4. 人と水環境の合意を目指す

研究 4

1. 水循環の変動性を理解する

2. 水資源として有効に活用する

3. 河川生態系を工学から理解する

4. 人と水環境の合意を目指す


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4.1. 背景

川の水は人類の高度な社会・文化活動を支える自然の恵みである。 しかし、使いたい時、使いたい場所に常に十分な水があるわけではない。 そこに資源としての希少性が生じ、水をめぐる競合関係が発生する。 また川は人間活動の舞台となる空間であり、自然界の物質循環を担う重要な機能も持っている。 長い人類の歴史の中で、河川の水、空間、そして機能をめぐって無数の利害対立が起こり、合意形成や意思決定に並々ならぬ労力が払われてきた。 近代文明は自然科学の進歩に支えられてきた。 社会基盤施設に関する意思決定も例外ではない。 しかし、自然科学のもつ明快性、論理性、合理性など抜群な切れ味に目を奪われるあまり、それ以外の「複雑な」要素を切り捨ててきたきらいはないだろうか。 現実の世界は、不完全情報、時間と費用の制約、文化や歴史といった(自然科学が扱いにくい)事情を不可避的に背負っており、しかもそれらが及ぼす影響は大きい。 そこでは時間と労力をかけて正しい解を求めようとする努力のみならず、たとえ理論的妥協があっても多くの人々が受容できる対応策を提示していくことが重要になる。 近年社会的重要性を増している環境という要素は、不確実性や不可知性の高さをその本質に持っている。 行政者や研究者が超越的に解決策を示すべき性質のものではなく、住民を主体とした利害関係者が交渉を通して合意形成を図っていく対象である。 環境のための水の分配問題(環境用水)を主たる題材に、コンフリクト解決の枠組と考え方を提示していく。

水循環変動の予測にはまず第一に、変動のメカニズムの正確な理解が必要である。 そのためには、局所的-地球規模のスケールを網羅する高度な水循環情報を得なければならない。 そこで、水循環を詳細に観測する地上観測ネットワークの構築と、人工衛星による水循環変動の観測手法を開発が求められている。 これらの統合的な観測結果をもとに、水循環の変動メカニズムを解明し、それをもとに将来を予測できる数値予測モデルの開発、高度化が次の課題となる。

そこで我々は、国際協力の下に水循環に関する現地観測研究グループ、衛星機関、気象機関の相互調整を図って、局所的-地域規模-地球規模の水循環強化観測と水循環変動予測の共同研究を進めている。

4.2. 特徴

4.2.1. 環境経済学手法の応用

経済学は貨幣という共通尺度を用いるため、異なる利害を定量化しての比較・調整が可能なツールである。 人間社会を数理化しての分析に実績もある。 環境問題の経済的側面の分析を図るとともに、現実の経済行動に影響を及ぼせる手段として環境税や補助金といった経済的手法の有用性を検討している。

4.2.2. 合意形成の支援

利害も関心も社会背景も異なるさまざまな人間が、その違いをそのままに一つの妥協点に達しなければならないのが社会基盤施設をめぐる合意形成である。 それには経済的側面だけでは不十分であり、(貨幣という)単一指標化では表せない要素を定量的に整理した基礎資料の提供(自然資源勘定など)や、住民参加による交渉の枠組の構築などにより合意形成を中立の立場から支援する。

4.2.3. 新たな環境概念の提唱

現代起こっている環境問題には従来の学問体系ではアプローチしきれない。 とくに、安易な経済学概念の適用はたいへん危険な可能性をはらんでいる。 完全解明が不可能な複雑性、時間変動の激しさ、人間活動との密接な結びつきといった特徴を踏まえ、人間にとって環境がいかなる意味をもつか、どうつきあっていけばよいのか等、価値判断の領域にまで踏み込んで考察を進めている。